【契約更改ウラ話】なぜ中日にプロ野球選手会は抗議文を送ったのか ドラゴンズの闇歴史にピリオド?

中日ドラゴンズの契約交渉が、物議を醸した。大きなきっかけとなったのは、11月28日付で日本プロ野球選手会(森忠仁事務局長)が「中日ドラゴンズ球団代表の言動に関する抗議文」を送付し、報道各社に公表したことだ。以下、引用する。
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『中日球団代表による所属選手に対する査定方法の事前説明が二転三転したり、不十分な点がありました。また、所属選手との契約更改交渉後に、同代表が、メディアに対して、一方的に所属選手が年俸金額でもめているかの印象を与える発言をするなど、選手と球団の信頼関係を維持できない状況が発生しています』
選手会が動いたのは、保留者の続出が理由ではない
 この2日前からスタートした中日の契約交渉は、正捕手の座をたぐり寄せた木下拓哉、先発に本格転向し8勝を挙げた福谷浩司、最優秀中継ぎのタイトルを獲得した福敬登の3人が立て続けにサインを保留した。この3人に限らず、活躍できたシーズンの契約交渉は胸躍るだろうし、期待も高まる。いざ提示された額に不満だとサインをしない権利も当然ある。
 しかし、2日で3人が保留した程度で、選手会が「抗議文」とは穏やかではない。内容にもあるように、問われたのは保留者が続いた事実ではなく、交渉に臨む姿勢だった。何人かのチーム関係者に事情を聞いたところ、選手会が動いた背景はこうだ。
『ここ数年、選手と球団とのコミュニケーションが活発になり、誠実な協議が可能になるよう、当会は、契約更改における査定方法の十分な事前説明、年俸金額の事前通知を求めてきました』(同抗議文より引用)
 つまり、報道陣に知らされる「交渉日」はセレモニーに近く、実際の生々しい交渉はそれ以前に済ませましょうということだ。だからこそ近年は「一発更改」が当たり前だったのに、立て続けに3人とはどういうことだ? 選手会が中日選手会に聞き取りした結果、いくつかの問題点が明らかになった。
選手を「悪役」にしてはいけないという強い思いも
 まずは下交渉の席で選手は球団から引き出せたと受けとっていた譲歩が、本交渉の席で反映されていなかったという点。選手は契約するつもりで来たのに「話が違う」となったわけだ。
 おそらくは球団側が曖昧な返答をしたからだろうが「言った」「言わない」の話になった。そうなれば人間は感情の生き物だ。「態度」や「言葉遣い」にも逆なでされ、おまけに保留を伝える記事を読んでみたら「金額の話」で決裂したことになっている。半分はそうかもしれないが、それだけが原因だと言うのは乱暴だろう。少なくとも選手たちは譲歩を勝ち取ったと思って本交渉の席に着いたからだ。
 選手会の異例ともいえる早期の対応は、選手を「悪役」にしてはいけないという強い思いもあるはずだ。
 コロナ禍で開幕は大幅に遅れ、試合数も削減。無観客でスタートし、制限されたままフィニッシュした。総観客数はセ・リーグで実に81%減(前年比)。法的な側面はあるにせよ、MLBは原則的に日割りで支払った今シーズンの年俸を、NPBは全額支払った。
 自営業、飲食業、観光業。世の中には悪戦苦闘しながら、例年よりはるかに少ない年収にあえいでいる人がたくさんいる。そんな中で選手会は「こいつらはよくもっと金を寄越せなんて言えるよな」という声に保留者をさらさせるわけにはいかないのだ。
活躍した高卒ルーキーが減俸、今年のドラフト1位以下に
 またベテラン選手からの訴えには、高卒ルーキーのことが含まれていたとも聞いた。
 石川昂弥は1500万円から1275万円で初めての契約を更改。提示額に黙ってサインしただけだろうが、曲がりなりにも一軍に上がり、かつ8安打打った。大卒や社会人経由の即戦力ではないのだから、減俸は説得力に欠けるという言い分だ。
 ましてや今年のドラフトでは同じ高卒で1位指名の高橋宏斗と石川を上回る1600万円で契約している。「将来の中心選手に」と言いながら、1年後には減俸する。アマチュア球界からの球団イメージ低下を懸念した声だったのだ。
落合博満GM時代の物言えぬ闇歴史にピリオド?
 もっとも、こうした球団への不信感、起用法を含めた指導者への疑問は、急に生まれたわけでもない。
 7年連続でBクラスだったチームである。当然ながら年俸面でも抑制され、2020年度の平均年俸3179万円(外国人選手を除く選手会加盟の支配下選手のみ対象)は全体10位だ。19年が11位、その前が9位、10位、11位。弱いから上がらないのか、上がらないから強くなれないのか……。不平不満はずっと前から渦巻いていた。
 それが表面化しなかったのは、大幅なコストカットを推進した落合博満GMや、谷繁元信、森繁和といった強面監督の前では思ったことを口にできなかったからだ。物言えぬ闇歴史にピリオドが打たれ、不平不満が公になる。ある意味ではまっとうな組織に近づいている証左ともいえる。
 もちろん下交渉の席で「言った」「言わない」になる時点で、球団代表の交渉姿勢は「不十分」と批判されても仕方ない。「ない袖は振れぬ」と居直っては交渉にならない。全身全霊をかけてコロナ禍でも収入を確保する方法を模索し、かつ誠意を尽くして財政状況を理解してもらうのは重大な使命だ。
 抗議文以降は保留者は出ておらず、木下、福も更改した。反省と歩み寄りの姿勢を忘れず、痛みをも分かち合う。共存共栄のため、何よりも失ってはならないのが、ファンの支持だろう。生観戦をあきらめざるを得なかった野球ファンを、しらけさせてはいけない。

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